相続放棄の必須知識が身につく徹底ガイド

みなさんは、「相続」と聞くとどういったイメージを持たれているでしょうか?
恐らく、「両親から財産を受け継げる」といったイメージを持っている方がほとんどではないでしょうか?
こちらはもちろん間違っていないのですが、相続によって受け継がれる財産は、多くの方が財産としてイメージする「プラス財産」だけでなく、借金といった「マイナス財産」も含まれるのです。

もし、プラス財産よりマイナス財産のほうが多かったら・・・?

親の借金をすべて肩代わりしなければならない、なんてことになりかねないのです。
こうした事態に巻き込まれないためには、「相続放棄」が有効です。
相続放棄をすれば、肩代わりする必要は一切なくなります。

しかし、相続放棄にはデメリットが付き物で、専門知識のない方が容易に行ってはなりません。
そこで今回は、この相続放棄について1から詳しくご説明していきます。
こちらのページを全部読んでいただければ、相続放棄に必要な知識を身に着けられるようになっているのでご安心ください。

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そもそも相続とは?

まず、相続放棄についてご説明する前に、そもそも相続とはなにか?についてご説明します。

相続とは、人が死亡したときに、亡くなった人と一定の身分関係にあった者が、亡くなった人が生前に保有していた財産の権利義務を受け継ぐことです。
受け継ぐ対象となるのは、現金や預貯金、自宅といった不動産、株券などのようなプラス財産だけでなく、借金や損害賠償債務といったマイナス財産も含まれています。
冒頭で触れたような、親の借金を肩代わりするなんてことにもなりかねないのです。

しかし、もともと相続という制度は、亡くなった方の遺族の生活を保障するために作られたのだとする説もあり、本来的には遺族を援助する制度と考えられています。となれば、あまりに多すぎるマイナス財産が受け継がれてしまったとなれば、援助になるわけがありません。
そこで、相続人が財産を放棄する、「相続放棄」という制度が法的に認められているのです。

相続放棄するかしないかは自由

上記のように、相続放棄はマイナス財産を多く受け継いでしまった場合に有効な手段となってくれます。
一方で、プラス財産が多かった場合に相続放棄はできないのか?といえばそうではありません。相続放棄は、相続人の自由な意思で行うことが可能です。
たとえ、プラス財産のほうが多かったとしても、一部に受け継ぎたくない財産があるのであれば無理に相続する必要はなく、当然、相続放棄することが可能となっています。

なお、相続放棄するということは、法的には「はじめから相続人でなかったこと(もちろん戸籍簿上の関係が消滅するわけではない)」になります。
よって、相続放棄をすると、プラス財産を受け継ぐ権利をも放棄したことになる点に注意です。
相続放棄はマイナス財産だけを放棄できる手続きではありません。

相続放棄申述の期間はわずか3ヶ月

もう1点、相続放棄で注意しなければならないのが、期間が定められているという点。
相続放棄は、以下で説明するように、管轄となる家庭裁判所に「相続放棄申述書」と必要書類を提出しなければ認められることはありません。
この期間がわずか3ヶ月しかないのです。
ここでいう3ヶ月とは、自身に相続があったことを知った日の翌日から3ヶ月となっています。
相続というのは、人の死亡によって発生しますので、多くの相続人は被相続人(相続される側の人のこと)が亡くなったのを知った日の翌日から、3ヶ月しか期間がないということになります。
この期間内に、相続放棄するか否かを自ら判断し、家庭裁判所にて手続きを行わなければならない点に注意しましょう。
1日でも過ぎてしまえば、原則として相続放棄は認められません。

相続放棄のメリット・デメリット

それでは、以下にて相続放棄のメリット・デメリットについても見ていきましょう。

●相続放棄のメリット

・マイナス財産を受け継ぐ必要がなくなる

相続放棄の最大のメリットは、マイナス財産を受け継ぐ必要がなくなることです。
どれだけ被相続人に借金や損害賠償責任といった債務があっても、相続を理由に受け継がれることはなくなります。

・相続の煩わしい手続きをする必要がなくなる

相続となると、「遺産分割協議」や「準確定申告」、「相続税申告」、「財産の名義変更」など、様々な手続きをしなければなりません。
相続放棄すると、こうした煩わしい手続きから解放されます。

●相続放棄のデメリット

・プラス財産を受け継げなくなる

一方で、相続放棄した場合は、プラス財産をも受け継げなくなるというデメリットがあります。
現金や自宅だけ相続したいといった、一部の財産のみを放棄し、自由な相続を認める制度ではないので注意しましょう。
すべての財産を受け継ぐか受け継がないかを判断するのが相続放棄です。

・後から相続放棄の取り消しはできない

相続放棄後に多額のプラス財産が出てきても、もはや受け継ぐことはできません。
原則、相続放棄は取り消しが認められていないのです。
ということは、相続放棄には3ヶ月という申述期間が定められているため、この期間内に被相続人の財産状況を把握し、相続放棄するか否かを判断しなければなりません。
よって、相続放棄は慎重かつ迅速に行う必要があります。

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相続放棄前の相続財産調査について

上記の理由から、相続放棄するか否か判断するには、前提として被相続人の財産がどのようになっているかを知る必要があります。
これを知るための調査を、相続財産調査などと言います。
この相続財産調査は、相続放棄だけでなく、遺産分割協議といった他の相続手続きの場合にも行われる重要項目となりますので、プラス財産の種類別に調査の仕方について知っておきましょう。

財産調査の結果、マイナス財産のほうが多いようであれば、相続放棄申述へと臨みましょう。

●現金・預金の調査

現金や預金を調査する場合、基本的には遺品整理と平行して行うのが良いです。
現金の場合、被相続人がタンス預金をしている可能性は十分にありますし、預金であれば預金通帳さえ見つかってしまえばあっという間に調査終了です。
通常、金目のものは人目につかない場所に置いておきたくなるので、引き出しの中身など、パッと見て、あまり目につかない場所をよく探してみましょう。
なお、見つかった預金通帳の残高は、そのまま鵜呑みにするのではなく必ず記帳しましょう。
口座凍結などにより記帳できない場合は、銀行窓口にて「残高証明書」を発行してもらい、現在残高がいくらになっているかを確認しましょう。
残高証明書の発行には手数料がかかってしまいますが、相続人であることを証明できれば(戸籍謄本や住民票などによって)、発行請求自体は容易です。

もし、預金通帳自体が見つからなかった場合は、被相続人の近所にある銀行や、以前、所縁のあった土地の銀行に口座の有無を確認してみるのが良いでしょう。
親族の誰も知らなかった預金口座が見つかるかもしれません。

●不動産の調査

被相続人が不動産を所有していた場合、それが自宅であれば問題はありませんが、他の地域に土地や建物を所有していたとなれば、当然、調査する必要があります。
不動産の場合も基本的には遺品整理と平行して行い、「権利書」や「登記完了証」、「不動産売買契約書」、「固定資産税納付証明書」などがないか確認してみましょう。
こうした書面が見つかった場合は、今現在も被相続人名義となっているか確認するために、全国各地にある地方法務局にて「不動産登記事項証明書」を取得して最終確認をしてください。
市区町村役場にて確認できる、「名寄帳」を利用してみるのも良い方法です。

●証券の調査

証券は基本的には証券会社や信託銀行などに預けておくことが多いので、自宅で保管しているケースは稀ですが、証券自体がなかったとしても取引があったかどうかは被相続人宛てに届いた郵便物(「証券取引口座の案内」など)から見つかるパターンがほとんどです。
こうした郵便物は、それ自体に金銭的価値がないため、人目のつかない場所に置く理由があまりありません。
よって、郵便物がまとまっている箇所などをチェックしてみるのが良いでしょう。

その他にも、近年ではパソコンや携帯電話などを用いて証券取引を行えるようになっているため、被相続人が所有している電子機器等の中身も確認してみることをおすすめします。

●マイナス財産(借金など)の調査

相続放棄するか否かの判断において、もっとも重要になるのがマイナス財産の有無です。
マイナス財産の場合もプラス財産と同様、基本的には遺品整理と平行して人目につかない場所や郵便物を確認していくのがセオリーです。
特に借金というのは、あまり人に知られたくないデリケートな問題なので、よく注意して調査する必要があります。

とはいえ、借金などの滞納であれば返済が滞った段階で、即座に電話や郵便による督促されるケースが多いため、遺品整理中には電話や郵便物に着目するようにしましょう。

その上で、マイナス財産を示唆する情報を見つけたら、現在どの程度の債務があるのかを必ず確認し、相続放棄を検討する材料にしてください。
なお、相続では税金関係の滞納も受け継がれてしまうため、被相続人が亡くなった後、被相続人が住んでいる地域の市役所や税務署などに滞納がないか確認しておくのも有効な手段です。

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相続放棄申述の手順

上記のような相続財産調査を経て、相続放棄する意思が固まったら、次は実際に家庭裁判所にて相続放棄申述をする必要があります。
以下にて、相続放棄申述の手順についても見ていきましょう。

1.どの家庭裁判所に申述するかを知る

相続放棄は、単に他の相続人に告げたり、自身が相続放棄すると思っていれば良いだけではなく、管轄となる家庭裁判所に相続放棄する旨を申述(申し述べること)しなければ効力は生じません。
ここでいう管轄となる家庭裁判所とは、亡くなった方が最後に住んでいた住所(通常は住民票届け出がある住所)の近くの家庭裁判所です。
申述人である自身の近くの家庭裁判所ではない点に注意しましょう。(管轄裁判所については裁判所のホームページを参考に→http://www.courts.go.jp/saiban/kankatu/

2.必要書類を集める

相続放棄申述には、主に以下の書類が必要となります。
なお、相続放棄の申述人と被相続人の関係によって、裁判所に相続人であることを説明するだけの戸籍謄本などが必要になります。
そこで、以下では被相続人の配偶者と、法定相続における第一順位に当たる子ども(代襲相続時の孫も含む)が申述人である場合の必要書類についてご紹介します。
第二順位である、父母(祖父母)、第三順位である兄弟姉妹(甥姪)の場合、亡くなった方と申述人とを結びつける多数の戸籍謄本が必要になる点に注意です。

●共通で必要

  • 相続放棄申述書(書式は裁判所の窓口やホームページにて入手可能)
  • 被相続人の住民票除票または戸籍の附票(死亡の記載があるもの)
  • 申述人(相続放棄する人)の戸籍謄本
  • 申述人1人につき収入印紙800円分と裁判所ごとに定める連絡用郵便切手(82円切手数枚)

●申述人が被相続人の配偶者

  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本(または除籍、改製原戸籍)

●申述人が被相続人の子、または代襲者(代襲相続の対象となる孫、ひ孫のこと)

  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本(または除籍、改製原戸籍)
  • 申述人が代襲者であることがわかる(本来の相続人の死亡の記載のある)戸籍謄本(または除籍、改製原戸籍)

3.家庭裁判所から照会書が届く

相続放棄申述書とその必要書類を提出すると、1週間かからない程度(裁判所の運用事情によって多少の前後あり)で、「照会書」といった書面が送付されてきます。
この照会書には、本当に相続放棄しても良いのか?なぜ相続放棄するのか?といった質問事項がいくつかあります。
こちらに回答し、家庭裁判所に送り返すことで手続きが進んでいきます。
なお、裁判官の判断によっては、直接裁判所まで足を運ぶ面接が開かれる場合もあります。

4.相続放棄申述受理通知書が届く


上記の手続きがすべて終わると、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届きます。
これが届けば、相続放棄の手続きは終了となります。

一般的には、相続放棄申述受理通知書さえあれば、相続放棄した事実を他者に示すことが可能ではありますが、中には証明書の提出を求められるケースも存在します。

実は、相続放棄申述受理通知書は相続放棄した事実の証明になるわけではなく、証明となると「相続放棄申述受理証明書」という別の書類が必要になるのです。

相続放棄申述受理証明書を取得する(必要な場合)

相続放棄を証明するために相続放棄申述受理証明書を取得したい場合、同じ家庭裁判所にて申請します。
申請の際は、手数料として1通あたり収入印紙150円が必要になります。

相続放棄申述からそれほど期間が経過していなければ、その場ですぐに発行してもらえますが、期間が空いてしまっていると裁判所で保管している記録が、保管庫などに移動してしまっているケースもあるため、数週間程度かかってしまう場合があります。
なお、通常は原本ではなく写しの提示で済むケースがほとんどなので、とりあえず1通だけ取得しておけば問題はありません。
もし、相手から原本の提出を求められてしまった場合は、後からでも必要枚数分申請可能です。

相続放棄によくある疑問を解決

相続放棄申述の手順については以上のとおりです。
それでは次に、相続放棄でよくある疑問についても見ていきましょう。

●事前に相続放棄は可能か?

人が亡くなるとなれば、考えなければならないのは相続放棄だけではありません。
死亡届の提出から始まり、葬式や法事など、やらなければならないことがたくさんあります。
相続放棄の期間がたった3ヶ月しかないのであれば、事前に相続放棄しておけたらと考える方がいてもおかしくはありません。

しかし、相続というのは上述しているとおり、人の死によってはじめて発生するため、まだ発生していない相続を放棄することはできないのです。
被相続人の生前であれば、家庭裁判所に申請する「相続人の廃除」という方法もありますが、相応の理由がなければ認められることはありません。
相続放棄が面倒、不安というだけで認められることはないのです。

少し大変ではありますが、3ヶ月という期間は常に頭に入れておかなければなりません。

●相続放棄が認められないケースとは?

相続放棄というのは、必ずしも認められるわけではありません。
相続放棄の申述期間である3ヶ月の期間内に、以下のような行為があった場合、「単純承認」があったとみなされてしまい相続放棄ができなくなります。
単純承認とは、無条件で相続を受け入れることです。
中には相続開始直後(被相続人の死亡後)にしてしまいがちな行為もあるので注意しましょう。

  • 不動産や動産など、価値のあるものを売却する行為
  • 遺産分割協議への参加
  • 相続財産の名義変更
  • 預貯金を引き出し消費する行為など

なお、上記はいずれも、自身のため(利益を得るため)の行為であって、葬儀にかかった必要最小限の費用を清算した行為は単純承認にはならないとしたケースもあります。
ただし、相続財産の一部を処分する行為が必要となった場合、その行為が単純承認とみなされるか否かは一般の方が判断するのは難しいといえます。
相続放棄の可能性がある場合は、事前に専門家や裁判所などに確認することをおすすめします。

●相続放棄が取り消されるケースとは?

いったんは相続放棄が裁判所に認められていても、上記で説明した単純承認に該当する行為を行った場合、相続放棄は取り消されてしまうので注意が必要です。
上記の他、財産を意図的に隠匿する行為も取り消し対象になります。

もし、相続放棄が取り消されてしまった場合は、2週間以内であれば「即時抗告」といって、裁判所が出した取り消し決定に不服申立することが可能となっています。
しかし、上記のような取り消し事由が事実であれば、即時抗告が認められる可能性は非常に低いため、後で相続放棄を取り消されることがないよう、相続放棄後も気を配っておきましょう。

多額のマイナス財産がある状態で相続放棄が取り消されてしまえば、自身が支払いをするか、自己破産するかでしか解決策がなくなってしまいます。
自己破産するとなれば、自身の財産まで多く失ってしまう危険があるため、相続放棄する際は、上記のような不誠実な行為がないように注意してください。

●3ヶ月経過後の相続放棄は?

相続を知ってから3ヶ月以上が経過してしまった場合、絶対に相続放棄できないか?といえば、そういうわけではありません。
例外的に3ヵ月後でも相続放棄が認められるケースもあるのです。
というのも、過去には3ヵ月後であっても相続放棄が認められるだけの事情がある場合、後からでも相続放棄を認めるとした裁判例がいくつかあるのです。

たとえば、借金や税金の滞納などといった債務の存在をまったく知らないまま、半年後にいきなり請求がきてしまった場合、債務の存在を知った日(請求がきた日)の翌日から3ヶ月以内であれば相続放棄を認めたという裁判例が過去にあります。
その他、他の相続人に騙されるなどで、相続財産の全貌を知らないまま相続放棄してしまった場合についても、全貌が判明した翌日から3ヵ月後の相続放棄が認められたケースも存在します。

ただし、原則は認められないため、なぜ相続放棄しなかったのかを裁判所に対して明確に説明する必要があります。
裁判所での手続きに慣れていない方は、専門家に依頼するのが無難です。

●相続放棄すると生命保険金はどうなる?

死亡保険金といった生命保険金は、受取人固有の財産とされますので、そもそも相続財産の中には含まれていません(ただし税法上、みなし相続財産として取り扱われる点には注意)。
よって、相続放棄しても生命保険金を受け取ることは可能です。

ただし、生命保険の契約上、受取人が亡くなった本人である「被相続人」になっている場合、相続財産として取り扱われてしまいます。
となれば、相続放棄すれば当然、生命保険金を受け取ることができなくなります。
よって、死亡時に生命保険金の受け取りがある場合は、どのような契約になっているのか?特に受取人の表記はどうなっているか?については必ず確認しておくようにしましょう。

●相続人がいなくなったら財産はどうなる?

相続放棄があると、次の相続人に相続権が移動します。
ここでいう次の相続人とは法定相続(法律上誰が相続すべきかという規定)における順位のことで、第一順位を被相続人の子ども、第二順位を父母、第三順位を兄弟姉妹とし、前順位の相続人が相続放棄すると、後順位の相続人へと相続権が移っていきます。
なお、配偶者は必ず相続人になるため、順位というものはありません。

では、相続人がすべて相続放棄してしまった場合、財産はどうなってしまうのでしょうか?
相続人がいなくなった財産は、利害関係人などの申立によって、裁判所から「相続財産管理人」が選任され、財産処分の権限を託されます。
相続財産管理人は、他に相続人がいないか?受遺者(遺言などによって財産を受け取る人)がいないか?といった、相続財産に関わる調査を行います。

この調査で相続人や特別縁故者(生前、被相続人と深いつながりのあった方)が見つかれば、必要な清算を行いますが、もし、誰も見つからなかった場合、すべての相続財産は国庫に帰属します。
つまり、国が管理する財産になるということです。とはいえ、相続放棄するほどマイナス財産が多い場合、わずかに残されたプラス財産は相続財産管理人の職務によって債権者(貸金業者など請求する権利をもつ者)に対し清算され、国庫に帰属されるケースは稀です。
なお、相続放棄したとしても、後順位の相続人や相続財産管理人に財産の受け渡しが完了するまでは、処分できないまでも相続財産の管理義務が生じています。

「相続放棄=相続財産から解放される」といった認識は、間違っていますので注意しましょう。

●相続放棄と比較される限定承認とは?

相続放棄とよく比較される制度に、「限定承認」という制度があります。
相続放棄がすべての相続財産を放棄するのに対し、限定承認はプラス財産の範囲内に限り、マイナス財産を相続するという制度です。

限定承認も相続放棄と同様、3ヶ月以内に家庭裁判所にて手続きをしなければなりません。
とはいえ、マイナス財産を多く相続してしまう恐れがない分、財産調査が間に合わなかった場合には非常に有効な方法と言えます。

しかし、限定承認は相続人全員の承認がなければできないという問題点があります。
1人でも単純承認を希望している相続人がいた場合、この時点で限定承認はできなくなります。
また、一時的には被相続人の債務をすべて受け継いでしまうため、貸金業者や地方自治体といった債権者(請求できる者のこと)から相続人に対して請求があっても文句を言うことはできません。

限定承認の手続きが遅延するなどした場合、最悪、強制的に財産を差し押さえられてしまう危険も想定されるため、一切の財産を放棄する相続放棄と比べると若干のデメリットがあります。
どちらの手続きを利用すべきかについては、現在の状況や相続人全員の意向、専門知識を多く必要とするため、限定承認は専門家を交えて進めていくことをおすすめします。

●相続放棄と相続分の放棄の違いって?

限定承認の他によく相続放棄と比較(正確には勘違い)されるのが、「相続分の放棄」です。
相続分の放棄とは、言葉のとおり自らの相続分を放棄することです。

どういった場面で使われるかというと、不動産の登記申請などの際、自分以外の相続人が相続財産を取得し名義変更する場合、通常は「遺産分割協議書」によって相続登記の理由を説明するのがセオリーですが、これとは別に「相続分放棄証明書」によっても説明が可能で、稀に利用されるケースがあります。
相続分放棄証明書とは、他の相続人が自らの相続分を放棄したことを証明する書面です。
しかし、上述したように、相続放棄とは家庭裁判所に申述をして初めて効力が生じます。
よって、相続分の放棄とは、プラス財産(の一部)を放棄したと証明する書面でしかなく、マイナス財産までを放棄したことにはなりません。

相続分放棄証明書に署名捺印したから相続放棄はもう終わったと勘違いしてしまうと、後から借金の返済請求をされる危険があるので注意が必要です。

相続放棄は単純なようで難しい

上記のように、相続放棄には申述前の財産調査、申述が必要かどうか(限定承認が良いか)の判断、そして実際に相続放棄するのであれば、申述の必要書類の入手までしなければなりません。
ただ放棄するだけだから単純、といった認識は間違っています。

実際には、財産調査まではなんとかできても、その結果を受けて、単純承認をするか、限定承認をするか、相続放棄をすべきかといった判断は、一般の方にとって簡単にできることではありません。
また、限定承認や相続放棄には申述に必要な書類が数多くありますし、書類の取得もわざわざ市区町村役場にて手続きする必要があり、手間も時間もかかってしまいます。

単純な相続関係であればそれほど苦労することはありませんが、相続人が複数いたり、亡くなった方が何度も転籍しているなどで、自身との関係を説明できる戸籍の入手にわざわざ遠方の自治体に問い合わせる必要があったりと、煩雑な手続きを多数含んでいるのです。

相続放棄の相談は相続問題のプロである弁護士に

上記の点を踏まえても、相続放棄するか否か少しでも悩んだ際は、まずは相続問題のプロである弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士であれば、相続放棄すべきかに対する的確なアドバイスをしてもらえるだけでなく、必要書類の入手、手続きの代理など、様々なサポートが可能となっています。

相続放棄は手続きの性質上、手続きのすべてを弁護士に代理してもらうことはできませんが(最終的に相続放棄すべきかの意思確認は本人に対してなされるため)、申述書などの記載が必要な書類はすべて作成してもらえます。
一般的な申述に必要な書類作成だけでなく、特別な事情がある場合(3ヶ月以上たってからの相続放棄など)、裁判所に事情を説明する「上申書」も作成してもらえます。

もちろん相続放棄の3ヶ月という期間についても、早い段階で依頼しておけば一切心配ありません。
確実に期間内に相続放棄を終えてくれるので、最初から最後まで安心して任せられます。
相続放棄で失敗したくない場合は、弁護士に相談するのがもっとも賢明です。

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